隣人の記憶


 道標のない道を、後を追って歩いていく残像こそが私ではないのか。
 底知れぬ未練と欲望を残していながら、人生の舞台に幕を下ろしてもいいとさえ思っている。
 
 天井の青い亀裂から垂れる陽差しをたどったところ。時のとまった水溜りに投げ入れられた白詰草が百一輪になった頃。ようやく手に入れた頭で辿りついた答えが、それである。
 
 しかし前へ踏み出す勇気がない。例え過去や未来を知りたくとも、私は自分を理解することすら怖かった。
 立派な頭があったところで揺らぎに生えた足には勇気が足りなかった
 
 いっそ、他者の人生を私のものには…ああそれすらもできやしない。
 
 何に悩もうと回答は同じ、「何もない」。
 それを知っていながら繰り返す自問自答に、私は私の影に閉じ込められてしまった。
 
 そして光を見て、私は自分の意味のなさを知った。