ラストジャーニー


別れの季節は少し早足で、あなたはいつか去って行ってしまった。
 置いてけぼりのユピトリはあなたを求めて追いかけるのだけれども。あなたはもう蒼鉛の空よりも遙か上、星のように、手を伸ばせども届かない。羽ばたけど届かない。
 あなたの最後の言葉を想うに、それは永訣を意味するのでしょう。朝がやがて夜になることも、そして同じ朝が来ないことも、ユピトリの魂は知っている。なので、あなたの“さようなら“が、果たしてそういう意味であることにも、なんとなく気づいていた。

 ああ、真っ白い、あなた。
 もっとたくさん、話したい事見たい事があったけれど。あなたとの旅は、もう終わりなんだね。

 おそらく、あなたが世界を願ったことは大変に讃えなければいけないのだろうけれど。
 一本の大きな樹になってしまったあなたに、あなたの儚さに育った素直な心は『それは、たいへん嫌だなぁ』としばしば俯いてしまって。飲み込んだ悲しみに潤した声で、ユピトリはなくばかり。
 また、あなたを忘れたくないために、あなたをどこかで感じていたいために、隣に誰もいないのを知りながら昨日や今日を語るのでした。

 しかしやがて、巡る日々にあなたのいない朝な夕なは溶けていく。涙に揺れる水たまりは静寂を取り戻し、乾いていく。
 その心地に悪い気がしないのは、なぜでしょう。ユピトリは大きく息を吸い込んで、前を見た。

 ああ、真っ白い、あなた。

 共に見た空は、雄大だっただろうか。駆けた山は、偉大だっただろうか。あなたの目には、それらはどのように映ったのだろう。
 私は、私はとても楽しかったことを今も覚えている。

 今日、あなたが残した琥珀色の涙を手に、外へ行きます。最後の悲しみを飲み込んで、思い出を抱いて。
やはり、あなたの最後の言葉を想うに、あなたとはもう会えないのでしょう。ねえ。

 だから最後に、あなたの名前を呼ぶの。