悠遠に、夢へ帰ってしまった記憶を望郷することはできないけれど。以前に拾ったハーモニカを手に、ユピトリは建物の隙間を窮屈そうに落ちる太陽を眺めていた。
多少の傷がついているが、まだ楽器として存在できるそれは、彼女のへたっぴな歌の代わりに鳴くのでした。
もうすぐ夜がくる。
後に幾つかの星霜を経て、きっと彼女はあなたが最後に教えた悲しみを飲み込めるようになるだろうけれど。今はまだ、白い樹になってしまったあなたに焦がれてしまっていて、おとなになろうとしている心は、あなたを忘れたくないために思い出にしがみついている。
遠く、遠くへ行ってしまったあなたに彼女、いまだに焦がれてしまっているよ。
もうすぐ夜がくる。
夜がくる前に、あのね。あのね。
たそがれ時の薄闇の中。彼女の相貌は見えなくなってしまったけれど。いちばん星が見えるまで、ハーモニカに口付けをして今日を歌うのでした。