グレイの記憶Ⅰ
喪服のからすにも馬鹿にされるような砂色の羽をしたヨタカは、今日も空を飛んでいました。とおくには赤い霧がかかっていて、天井はいつもくすんでいます。いっぴきのヨタカは生まれてこのかた青空を知りません。知りませんが、知らなくても構いませんでした。なぜならヨタカはいつも、地上ばかりを気にしていたからです。
ヨタカが空から見知らぬものを見つけて、キョッキョッキョッと鱠を叩いたような声を上げれば、地面の上では争いが起こります。争いが起こらないこともありますが、大地に赤いシミができる事の方が多いような気がします。しかし、それが何か恐ろしいことである事は分かりませんでした。なぜならヨタカはいつも、自分の役目を果たしていただけだからです。
お日様が沈んで、ヨタカは女の子の腕におりました。ヨタカに足を支える腕が、少し鉄が焦げたようなにおいがする気がしますが、ヨタカの鼻はあまり良くはありません。
女の子は毎日決まってヨタカの頬を撫でました。ヨタカは爪の届かない場所を、女の子の暖かい手にこすられるのが好きでした。そうして元気になって、また空を飛ぶのです。なぜならヨタカはいつも、ひとりの女の子のことが好きだったからです。
---【明日の空】
味方と自分に状態異常耐性を付与する。
グレイの記憶Ⅱ
ときにヨタカは、たなびく雲の隙間から大きな声で恐ろしいものを呼びました。それは、たいてい女の子のためにするのですが、ヨタカはタカのような名前をしているのに小鳥と同じ力しか出せません。なので遠くからキョッキョッキョッと呼んで、恐ろしいものをどこかへ連れて行くことしか出来ないのです。そうしてでしか女の子を守れないのです。
呼ばれた鬼は、返事をするためにヨタカを追いかけます。鬼がヨタカをめがけて手を伸ばします。そのたびにヨタカは、尾羽や風切羽根を切られてよぼよぼと羽ばたきました。
しかし、それでも一生懸命にそうするのは、やはり女の子が好きだったからでした。
ヨタカは可愛らしいあの子のためなら、砂のような色の羽が少し千切れても良いような気がしたのです。
---【宙の盾】
スキル発動後、一定時間敵を引きつける。
グレイの記憶Ⅲ
いつしかヨタカは、同じ日が明日もあることを願っていました。代わり映えのしない明日や明後日でも、すぐそこにあの子がいるのならしあわせではないか。翼が多少ちぎれても、あの子の指でくちばしを擦ってもらえるなら、なんだっていいのです。
しかし赤い霧が壁となって立ち込めたここに、平和というものは無いのです。だから今日、目の前で女の子が死んでしまった事をヨタカは信じられませんでした。
花びらのような女の子の血が辺りに舞い、そのいくつかがヨタカの目に入ってしまいます。そうして目を閉じた一瞬に、女の子の体は灰になっていきました。
さらさらと風に乗って飛んでいく灰はとても綺麗で、愛おしく見えてしまうのはそれがそういうものだからかもしれません。
ヨタカに知恵はありませんが、目の前のことがどういう事かは知っています。だからヨタカの胸は張り裂けてしまいました。
そして、最期の力を振り絞って、風に飛ばされてしまった灰をヨタカは追いかけました。高く高くへ飛びました。
ヨタカは翼を何度も何度も、だんだん寒く凍えそうになりながら羽ばたかせました。しかしいつまでたってもあの子には届きません。疲れてとても困ってしまって、ヨタカはキョッキョッキョッと鳴きました。
そして、星が見えるところまでたどり着いて、力尽きて翼を閉じました。
---【アセンション】
HPを犠牲にして冥血を増やす。
グレイの記憶Ⅳ
まっさかさまになりながら、ヨタカは女の子を探しました。そして、ようやく気付きました。
「ああなんだ、あの子はここにいたじゃないか。」
ヨタカはどんどんどんどん落ちていきます。鈍色の空気に体を擦り付け、青く赤く光りながら落ちていきました。最期にはきらきらと輝きながら、女の子といっしょに尾羽や足やクチバシを燃やしていきました。
---【鳥の星】
保有する冥血を全て使用して前方へ突進していく。使用する冥血の量が多いほど威力は上がる。
の記憶
...全て終わったのだろうか。
ジャックに新入りと呼ばれた彼女が、女王と呼ばれたものを討ったのだ。
けれど強大な力を持つ女王の血に蝕まれた新入りは、すでにジャックにより生き絶えていた。
そして新入りの周りを飛んでいた鳥もまた、女王の血を浴びてもがきながら崖の下へと落ちていった。
これで、これでようやく全てが終わったのだろうか。
幾度も堕ちた仲間を手にかけたが、やはりどんよりとした曇天のような居心地の悪さはいつまでたっても変わらない。
そんな晴れない気持ちに自分のまともさを感じ、安堵のような何かを覚える。改めて今一度灰になった新入りを胸に留め、彼は地を後にした。
---【トゥビヨンド】
パッシブスキル。
同行者と体力を分け合う。
同行者と自分の残り体力を合わせ、自分と同行者の数分を割った数字が自分の残り体力になる。