そこは、グラスのフチを撫でたような音で満ちている。
そこは。愛に溢れていたかもしれない。
そこは、磁石と磁石の間みたいになっている。
そこは。平和に着いたかもしれない。
そこは、貝の絵の具が混ざり合っている。
そこは。お腹がいっぱいだったかもしれない。
そこは、ぬれた画用紙みたいに滲んでいる。
そこは。大空かもしれない。
そこは。幸せだったかもしれない。
ここからあそこまで、おもゆのような光が、肌におりては砂のようにおちていく。
おおきな。ほんとうにおおきな、真っ白なそこは、あとにもさきにもここしかありません。
そこにあなたやわたし、君や僕が、一生懸命にスプーンで心をすくってばら撒いたら、きらきらとひかって、満点の星空ができあがります。
ここは宇宙みたいにどこまでも広がっているものですから、さらさらとながれて落ちつづける光に、星は暗くなってしまいます。
親指と人差し指で作った眼鏡を覗くと、そこに将来の夢が見えます。座り込むと、ここに無くしたものが見つかります。
そこは、足がつきません。ここは、手が届きません。花が咲きます。雲があります。水があります。空気があります。
黄金の夏、白銀の冬、青い春、紅い秋。豪華な落書き帳にみえるそこは。
そこは、なくした絵本の一ページでした。
おとなになるほどに、昔のことって愛おしく見えてしまうの。なんともなかったあの日が、大切に思えてしまうの。
けれどそれを悲しいとは思ってはいけないよ。今もまた、過ぎ去っていく。
全ての意味なんていうものは、あってないようなものだから。7日後にはきっと蕩けて忘れてしまいそうな、たったそれだけ、たったこれだけの事が、やがて輝きを纏うのは7年後。
今日がいつか、あなたの体温が染み付いた、だいすきなおもいでになりますように。