「アンシャンテ、ユピトリ。お噂は予々。言葉は話せるのか?私の指は何本に見える?」
「あんしゃ…?
私、ちゃんと、話せる、よ。指は…5本!私、と、一緒だね。」
「自我ははっきりしているな。アンシャンテ、初めましてだ。
エルドレッド・ロゼ。化け物の研究をしている。」
「ふぅん。はじめまして、の、言葉。
アンシャンテ、私は、ユピトリ。
ネ、噂って、なんのこと?」
「界隈は君の話で持ちきりだ。聞きたいことが山ほどある。が、まず。君の体は人間だとして、さて人格はどちらのものだ?」
「かいわい?とにかく、なんだか、私の話。私、の、こと、気になるんだね。
人格はね、うーん。私、は、私。ユピトリだよ。」
「ふむ、自覚なし…か?なるほど、さっぱり分からん。
…ではユピトリ。主食は?ミミズか?」
「ミミズ、は時々、食べる。でも、小さい。お腹いっぱい、ならない。それに、虫。食べる、と、怒られる。ので、こっそり食べる。秘密ね。
あとね、パン。ロスト。でもロストも、怒られる。ので、我慢。」
「なるほどほぼ鳥か。理解した。
身体は一応人間だからな、怒られて当たり前だ。体調を崩すことを厭わないならたまにうちに来るといい。困らない程度に食わせてやろう。もちろん内緒で、だ。」
「いいの?私、体、壊したこと、ない。ので、大丈夫。
でも時々に、考えるの。ロストはごはん、けどごはんじゃない。それ、時々窮屈だけれど、人なら我慢、て、仕方ないのかな。」
「ああ。正解だ。人間の姿をした鳥。
考えられるうちに考えておけ。貴様は主人から大切にされていると同時に、主である鳥お前自身が…依代の人間を大変丁寧に扱っている。だが…ロストを食うということは、いずれロストになるということだ。
愛されるうちは、我慢しておけ」
「主人?よりしろ?難しくて、分からない…けど、ここが、食べるか、食べられるか。どっちか。知ってるよ。
だから、いつか食べられるかも。けどそれ、私、の、大事な人。悲しむね。ので、私。食べられない方。になる。
あなた、私より私、に、詳しいね。もっと、教えて?」
「人間、鳥…互いにいい個体に出会えたものだな。
…私もいいサンプルに出会えたのでな、サポートはしてやる。だがブレーキにはなってやらん。
望んだ選択肢を用意してやる。間違っていても止めない。貴様の未来は貴様で描け。
さてユピトリ。手始めに血を採ってもいいだろうか。」
「血?注射のやつ?……それは、ヤ!ヂクってする。ヤ。
注射、しないとダメ?違うのなら、頑張れる…」
「ちくっとするだけだ…一瞬で終わる。人間の体だから痛みは少ない。
心配するな。とって食ったりしない。」
「むむむ。んんん。注射、できたら、えらい…すごく、なりたい。
本当に、痛くない?その…すごく、先っぽ。とんがってる。絶対、痛い。絶対痛い…
けど、ちょっと頑張る。」
「理解が早くて助かる。さすが動物部分が大半を占めているだけあるな。
採るから腕出して、見ないように目閉じるか…他所を見ておけ。すぐ終わる。」
「うーん。むむ。んんん。むっ。見ない、でも痛い、痛いのだ、きょ、キョキョキョっ」
「なんだその鳴き声は。
___はい、終了。貴重な血液、感謝する。よく頑張ったな。」
「キョ…頑張った。私、頑張った。…もっと、褒めて。でも、痛い。痛い分、役に立つ?
ね、それ。何に使う?時々、血、欲しいって、言われる。でも私、よく分からない。」
「偉い。素晴らしい。
_研究者を名乗る、素性の知らん男になんの警戒心もなく血を摂らせる心意気には…賞賛せざるを得ない。お前の血が欲しい奴は、決まって私みたいなやつばかりだろう。
他人は敵だ、ユピトリ。食う側になりたいのなら、決して正体を明かすな。」
「じゃあ、ロゼ。あなた、悪い人?なら、私、あなた、に、噛み付く。私の血、取り返そうって、努める。
けど、ロゼの言う通り、正体隠した方、いいなら。きっとそれ、やめた方、いいのかも。
どれが本当の私、か、分からないけど。
…それなら、ね、ロゼ。よく分からない私の、血。採るの、ロゼも、危ない。と思う。」
「…………
まさか鳥に宥められるとは、いや…何というか、ハハ…それは、あー…盲点、だった。
悪い…、あまりにも正直なものだから…虐めたくなった…すまない…」
「なんだか、楽しそう。でも、私。何が楽しいか、分からない。
私、どうも鳥、と言われる。確かに、そう。でも、今、人の形。今私、あなたと一緒。
ので、あなたの気持ち、知りたい。ふふふ。」
「…失礼。訂正しよう。
ユピトリ、お前はお前以外の何者でもない。その、なんだ。些細な問題でも頼れ。私はお前が気に入った。最上級のサポートをしよう。」
「ふふふ。私、も、ロゼが、好き。あなたみたいな人、初めて。ロゼが、何かたくさんしてくれる、なら私、も、お返しを、する。
…で、結局、私の血、どうする?何がわかりそう?」
「いや…気持ちだけで十分だ。私に気を使うことはない。
何かを知るためというよりかは、使うために採った。……脳をもらうのが一番だが、嫌だろう。」
「使う?飲んだり、する?私の、あんまり、美味しくないと思う。し、言われた。
脳はね、嫌。心臓が、無事なら、もしかして大丈夫。けどきっと痛い。注射より、痛い。」
「私は決まったやつの血しか飲まん。
吸血鬼の性質は非常に厄介だ…灰になることなく、そのまま身体を置いていってくれたら、どれだけの者が救われたか。」
「ロゼは、血を飲む。私は、ロストを食べる。ふふふ、それって、なんだか似てる。
吸血鬼が灰にならないと、誰かが助かる?何から?乾くのからかな。ロストからかな。」
「そういう体になってしまったのだから、仕方がない。
……大切な者が死んだらお前はどう思う。」
「それは。とても寂しい。…うん、やだ。好きな人、いなくなったら。きっと私、悲しくて、虫だって、ロストだって、食べてしまう。いっぱい。それと、どこか遠く、行っちゃうかも。
もしかして、ロゼ。大切な人、救えなかった?」
「それのためなら死んでもいいと思えるくらい、愛している者がいる。
戻れない所まで、来てしまってな。
“延命が不可能なら、永遠に保存してしまえばいい“なんて、ずっと迷走している。
ずっとだ。」
「ずっと。それは、毒のよう。
ロゼでも、迷ってしまう。確かに、分からないって、怖い。迷子は、寂しい。
ロゼ、は、今、とても、苦しい?難しい?」
「……、あいつの苦しみに比べれば、…
解決は不可能。永遠に悩み続けることこそが、私に与えられた…罰なのだろうよ。」
「つまり、やっぱり、ロゼ、苦しい。
罰になる、ほど、悪いこと。それは、ごめんなさいって、するべき。
けどずっとのごめんなさい、は、なんだかあなた、を、遠くに、感じてしまいそう。
難しい、問題。ロゼにしか、分からない。むむむ。」
「この毒、感覚、痛みは…私だけのものだ。解らずともいい。解ってもらう必要がない。 解るはずがない。
話が逸れたな、すまない。どうか、内密に頼む。
…お前の血でお前を弄ろうかと考えていたが、返すか?気が変わった。」
「私と、ロゼの、約束。いいよ。
その血、もういらない。私の、だけど。無くなってしまった。その分の、新しい血、もうできてるんだって。これが帰る場所、隙間、は、ないの。ので、それ、あなた、が、持っているといいと、思う。いらないなら、食べちゃえ!」
「ハハ、誰が食うか。キメラでも作れれば面白いんだがな。作って私が食われそうになったら、助けてくれよ。」
「ふふふ、キメラと一緒に、うっかり私、ロゼのこと、も。食べちゃうかも。でも食べない。きっと食べない。多分食べない。ロゼのこと、ちゃんと助ける。
ね。ロゼ、強いの?いっぱい、ロスト、やっつけてそう。」
「多分?多分は困るな。愛した奴の隣でしか死にたくないんだ。
弱いぞ、私は。それはもう。お前の何倍も弱い。お前がその気になれば食える。」
「ふぅん、そっか。
…決めた。もうロスト、食べない。食べないよう、頑張る。
私、ロゼを、食べない。いつか、ロゼ、が、ロストに、なっても。きっと同じ。
ので、ロスト、は、もう食べない。」
「どうした、急に。
異常を常習化させるのは相当かかるぞ。時間も労力も。耐えきれなくなって、ロストに成り果てるかもしれん。」
「えへへ。ロスト、を食べたら、ロスト、になる。そう言ったのロゼ。だから、私、ロストにならない。食べないから。でしょ?
大丈夫。注射も、我慢できた。怖かったけど。それならロスト、は、もっと我慢できる。私、は、ちょっぴり、すごい。」