あれから、何日経っただろう。
待つ気のなくなった、ジズと名乗る人が、へんな魔法みたいなものを発動して、景色
が変わった。その時辺りはすっかり夜になって、知らない世界だった。言語を話す人
間が当たり前にいて、動いている。驚いた。
オレはチルと一緒に案内されて、ジズと名乗る人と、桃色頭の奴とは別れた。
時々目を覚ますチルと少し話して、また眠ってしまう。手は、繋いだまま。
気づかない訳がない。ノース様が連れてきたあいつと、あいつと会った時から様子が
おかしくなった。ずっと眠そうだし、体が重そうだった。聞いても眠ってしまうし、藁にもすがる思いだった。どうしようもなかった。会って間もない知らないやつについて行って、命が惜しくないわけじゃない。チルの命が惜しいのだ。ずっと起きないかもしれないと、不安で不安で仕方がない。
また眠りについたチルの手を握って、どうしようもない顔をする。
「…お客様、何か召し上がってください」
「ああ、すいません…どうも」
…………哀れな目を向けるな。オレよりこのお前らの目の前で寝たきりのコイツの心配をしろ。声をかけるなら、治してくれ。助けてくれ。早く出て行け。
ニアは、チルが眠る寝台の余りに上半身を預けて、目を閉じた。
「__どういうつもりだ馬鹿者!国を滅ぼすつもりか!」
「しっ 起きて泣いたらキミのせいだよ」
「やかましい!!!」
がやがや、ばたばたと、きっと騒がしい。
赤い霧の世界で我慢の効かなくなったジズは、ユピトリが目覚める前にさっさと転移術を発動した。
国のどこか一角、一部屋。結構な本が床に積まれていて、結構な植物も床やテーブルの上に置かれている。足の踏み場が少なく、ソファに上着が投げられていて、少し埃っぽい。
一行は国に着くや否やすぐに分けられ、ジズはユピトリを自室に持ち込んだ。
追いかけっこの足音が静かになり、かすかな話し声だけが聞こえる。
「いやだってキミ、あれが…を滅ぼすレベル…んだったら、ボクが…てきた時に…しなよ」
「…………なぜ連れ…きた?」
「余裕あるじゃな…か。ね。どうやって…す、それとも生かす?」
「キミは…の国に、そんなに愛着湧い…んだ?」
「弟からのサプラ…ズだ もっと楽…まないと」
「ハア…………」
ため息の後に静寂が訪れる。ふたつの声が、さらに大人しくなる。
「ボクはしばらく、…るから」
「…は、好きにしていい」
「好きにって……、……」
ジズはそのあと、何も言わずに扉を開けて、自室に上着を取りに戻ってきた。
眠るユピトリのすぐ側まで近寄ると、他人に聞こえない声量で耳元で話す。
「……キミがボクの雲をとってくれたら、孫の件をチャラにしてやるのにな」
「残念だよ」
「さようなら、ユピトリ」
顔をあげて、心底つまらなさそうな顔をする。
ジズはすぐに表情を作り直して、開いたままの扉へ向かう。
扉の先で待っていた男に何かを告げてから、階段を降りて行った。